コーリーの毒から生まれた温熱療法

「コーリーの毒」をご存知でしょうか。

19世紀の米国の外科医、悪性腫瘍の研究家であったウィリアム・コーリー医学博士(1862-1936)によって発見され、免疫療法の先駆けとなったのが、この「コーリーの毒」。

この記事では「コーリーの毒」の歴史的背景や、「コーリーの毒」から応用された温熱治療について解説します。

コーリーの毒とは

アメリカのニューヨークで骨専門の手術医をしていたウィリアム・コーリー医学博士は、1890年に手術を担当した患者が骨肉腫で亡くなったことに納得できず、ガンに対する調査を始めました。

そして病院の過去の事例を調べると、フレッド・シュタインという肉腫の患者が丹毒という化膿レンサ球菌による感染にかかって高熱を出した後にがんが消えたという記録を見つけたのです。

さらに調査を進めると、ロベルト・コッホ、ルイ・パスツール、エミール・フォン・ベーリングといった著明な細菌学者が残した記録にも、丹毒によるガン腫瘍の縮小が記述されているのを発見したのです。

コーリー博士は、「菌を退治するために出す高熱によって、がん細胞が死滅する」という独自の理論を提唱し、患者に菌を投入する療法を開発しました。やがてそれが「コーリーの毒(Coley’s Toxins)」と呼ばれる治療法になったのです。

コーリーの毒によるガン治療結果

コーリーの毒が初めて患者に投与されたのは、1891年5月です。

扁桃と咽頭に腫瘍があるゾラという患者に対し、初めての丹毒を意図的に感染させる治療を行いました。ゾラの症状は著しく改善し、その後8年半の間存命したそうです。

また、1893 年5月には当時16歳で腫瘍患者だったジョン・フィッケンにもコーリーの毒を投与します。コーリーの毒によってジョン・フィッケンの腹部の大きな腫瘍は消え、その後26年間、42歳で心臓発作を起こして亡くなるまでガンは再発することなく、ずっと健康だったとのことです。

コーリーの毒のその後

コーリー医学博士の成功を受けて「コーリーの毒」はアメリカやヨーロッパに瞬く間に広がり、19世紀の終わりまでに42人の医師がコーリーの毒の成功例を報告しています。

ところが、医療や薬品業界が、これに〝待った〟をかけます。

米国がん協会(American Cancer Society)や英国がん研究所(Cancer Research UK)などが、コーリーの毒に対する否定的な見解を次々と発表。細菌を体に与えるのは危険などの理由で、欧米のほとんどの地域で使用を禁じられてしまいます。

こうして欧米ではガン治療に対して外科手術や放射線療法が普及していったのです。

コーリーの毒理論を応用した温熱療法

コーリーの毒ががんに効く理由は、コーリーの毒に入っている細菌に反応して身体が高熱を出し、がん細胞が高熱のせいで活動を停止するか、死滅するから、ということでした。

また一方でがん細胞が作る新生血管は普通の血管に比べて熱の代謝が悪いことが分かり、がん細胞は高熱に耐えられないことが判明していきます。

そこで、このコーリー博士の発見にヒントを得て、温熱療法が開発されたのです。

温熱療法とは

温熱療法とは遠赤外線などによって体の内部の温度を上げるものです。この温熱機は、最初にドイツで開発されました。

40度から42度の範囲では、がん細胞の活動が止まると見られており、

43度から44度では、がん細胞のみ死滅。

そして体温が45度以上になると、がん細胞も普通の細胞も死滅してしまうと言われています。

つまり理想的なのは43度から44度の範囲に体温を保つことでした。しかし温熱機でこの範囲の体温を保つのは難しく、誤って45度以上になると普通の細胞が危険です。そのため、温熱機を使うことで体温が40度から42度になるよう設定したところ、がん細胞の活動が鈍ることがわかったのです。

温熱療法でどんな変化があるか

温熱療法を最も採用しているのは、メキシコのティワナ地区の病院です。

ティワナはがん治療に関しては世界で最も自由な地区でがんに対する療法の多くがアメリカの比にならないほど認可されています。ティファナ の医師たちが温熱療法を使う理由は、高熱によってがん細胞が弱くなり、その他の様々な療法の効果が出やすくなるからです。

メキシコのティワナでクリニックを持つヘルベルト・アルバレズ医学博士(Stella Maris Clinic 院長)によれば、温熱療法を併用すると、がん細胞の周りをコーティングしている硬いタンパク質の膜に変化が起こり、抗がん剤が通常の半分以下の量、放射線は5分の1ほどで、同じ効果を発揮できるそうです。

同じくティファナ でクリニックを持つアントニオ・ヒメネス医師(Hope 4  Cancer Treatment Center院長)によると、温熱療法を行うことで、NK細胞、樹状細胞、CD8が増えることや、NK細胞を活性化させるヒートショックプロテインが促されるなど、免疫にも効果を発揮すると述べています。

つまり温熱療法を使えば抗がん剤や放射線の投与量をかなり減らすことができるので副作用を軽くでき、またそれだけでなく免疫も高めることができるのです。

まとめ

コーリーの毒の歴史はいかがだったでしょうか。

がん治療は進化し続けますが、過去に素晴らしい発見をしてくれている医師たちが残してくれたものもしっかり学びたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

 

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