アメリカのニューヨークの開業医、ニコラス・ゴンザレス博士は、独自に開発した栄養素療法で特に末期のすい臓がんを治療する。そのキーワードは「解毒」。その効果のほどは?
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がん治療で毒素に蝕まれる
「がんになった人の大半は、ただでさえ体に重金属や人工の食品添加物といった毒を相当貯めています。そこにがんの治療が始まると、死滅したがん細胞からも毒が溢れ出ます。抗がん剤は非常に毒性が強いですから、この抗がん剤の毒が加わると、全身はそれこそ毒だらけです。この大量の毒に、腎臓や肝臓など、解毒を受け持っている器官はとても耐えられないでしょう。これをそのままにしておいたのでは、がんで亡くなるというより、毒素で死ぬ人の方がずっと多いのではないか」(ゴンザレス博士の2012年のロサンゼルスでの講演より)
ゴンザレス博士はがん治療に抗がん剤は一切使用しません。その博士でさえ患者さんには徹底的に解毒をさせるのに、抗がん剤を使った治療で解毒しないなんてとんでもない、というわけです。また、抗がん剤治療による痛みや吐き気などの副作用は、がんの増殖が周りの組織を圧迫するせいもありますが、抗がん剤の毒性も大きく影響している、と考える研究者も少なくありません。ですから、解毒は抗がん剤の副作用を和らげる効果もありそうです。こうした解毒にはいろいろな方法があります。その方法を紹介していきます。
毒素を排除する方法
コーヒー浣腸
がん治療に最も多く使われている解毒方法は、コーヒー浣腸です。これを最初に本格的にがん治療に使ったのは、ドイツのマックス・ゲルソン医学博士で(1936年にアメリカに移住)、1928年ころです。博士がコーヒー浣腸を採用したねらいは、もちろん体全体の解毒ですが、特に肝臓から毒素を追い出して、肝臓の負担を軽くすることです。博士はがんを予防するうえでも、がんを治療するためにも、肝臓が一番重要な器官である、と考えていました。
肝臓は様々な酵素の生産工場であり、とても重要な役割を果たしています。肝臓は、血液で運ばれて来る重金属、食品添加物などの毒素や、がん治療によって死滅したがん細胞の死骸などを吸い上げて、胆汁に混ぜて胆管から腸に流し込みます。そして、腸から大便などに混ざって、これらの毒素が体外に排出されます。特にがん治療の最中には、がん細胞の死骸がどんどん肝臓にたまります。
コーヒーに含まれているカフェイン、テオブロミン、テオフィリンには気管や血管などの管を押し広げる働きがあり、これらが肝臓に到達すると、胆管を押し広げます。毒素やがんの死骸が流れ出す通り道が広がりますから、肝臓から毒素などがいち早く排出されますので、体全体の解毒が促され、肝臓の負担も軽くなるわけです。
コーヒーは浣腸で入れると、カフェインなどが肛門の近くで吸収されますので、痔静脈(じじょうみゃく、肛門の近くにある毛細血管)、門脈を通って肝臓に到達します。ところがコーヒーは飲んでも、カフェインなどがあまり肝臓には届きません。むしろ、コーヒーを飲み過ぎると血液を酸性の方向に傾けますので、ゲルソン博士はがんの患者さんに、コーヒーを飲むのを避けるように指示しています。また、カフェイン、テオブロミン、テオフィリンはお茶の葉などにも含まれていますので、浣腸に使うのは、お茶などでもいいのですが、コーヒーが一番有力として言われています。
また、コーヒー浣腸は肝臓の胆管を押し広げるだけでなく、もうひとつの重要な解毒機能を刺激します。
それが、「酵素の活性化」です。
コーヒーの成分が肝臓に届くと、特にカフェインによって、肝臓の中のグルタチオン・S・トランスフェラーゼという酵素が非常に活性化されます。この酵素は、グルタチオンの抗酸化作用と解毒作用を仲立ちする触媒として働きます。
グルタチオンはタンパク質の一種で、私たちの体の中で合成されます。強力な抗酸化物であり、特に細胞膜の酸化の連鎖反応を食い止める働きが知られています。またグルタチオンは、抗生物質などの薬品、食品添加物などの化合物といった、体にとって不自然な物質にくっついて、液体に溶け込むという性質も兼ね備えています。ですから、グルタチオンに結合された薬品や化合物は、肝臓の胆管から胆汁などの液体と一緒に腸に押し流され、便と一緒に体外に排出されます。これがグルタチオンの解毒作用です。
コーヒー浣腸は、がん治療によって死滅するがん細胞を体外に排出するだけでなく、フリーラジカル(活性酸素)を中和し、体にとって不自然な薬品や化合物なども排出する、非常に広い範囲の毒物を体から排除する解毒法と言えそうです。
コーヒー浣腸以外の解毒法には、どんなものがあるのでしょうか。
ケリー療法
コーヒー浣腸をがん治療に本格的に導入したのはマックス・ゲルソン博士ですが、このゲルソン療法によってすい臓ガンが治ったウィリアム・ケリー博士は、研究を進め、独自のがん治療法を開発しました。ケリー療法と呼ばれるこの方式で、実に3万3千人ものがん患者を治療した、と言われています。
ケリー療法の解毒は、毎日のコーヒー浣腸を軸に、解毒に関係する臓器を順番に浄化します。使うのはりんごや柑橘系の絞り立てジュース、パセリのお茶、エプソムソルト、オリーブオイル、さまし水などで、まずは肝臓と胆嚢(たんのう)、次に小腸、結腸、腎臓を浄化します。腎臓の浄化は、利尿を促すやり方です。
これらと平行して、生のたまねぎ、生姜(しょうが)とにんにく、カイエンペッパー、黒こしょうといった辛いものを食べて鼻の通りをよくし、呼吸を促すことで肺を浄化します。そして、決め手は肌の浄化です。肌の表面の古い細胞を削ぎ落とす、つまり垢(あか)すりによって、肌からの毒物の排出を促します。
ケリー療法はこうした各臓器の解毒が細かい手順で決められ、実行するのはなかなか大変そうです。しかしケリー博士は、「がんが直接の原因で亡くなる人はまずいない。がん治療によって発生する毒が死因の人がほとんどだ」と主張し、解毒さえきちんとしていれば、がんによって死ぬことは食い止められる、と考えていたようです。
重金属などを解毒するキレーション
体内の重金属や放射線物質などの有害物質をつかみ取って体外に運び出す解毒の方式は、キレーションと呼ばれます。もともとはヒ素中毒、鉛中毒の解毒剤として開発されました。今でも使用されているのは、EDTA(エチレンジアミン4酢酸)、DMSA(ジメルカプトコハク酸)といった合成物質です。これらはキレート剤と呼ばれ、ヒ素、鉛、水銀、カドミウムなどの重金属のほか、セシウム、プロトニウムといった放射性物質(これらも重金属)を捕まえます。
キレーションというのは、単にくっつくというだけでなく、重金属を挟み込むような形でがっちり捕まえる、という意味です。体に有害なのは主に、重金属の陽イオンですが、キレートされた重金属は無害化されます(放射性の重金属は、重金属としては無害化されても、放射線を出すことは止められません)。そして、キレート剤は水に溶けますから、体から流れ出しやすくなるわけです。
自閉症、心臓疾患などは体に貯めた重金属が関係している、と考える研究者は少なくありません。また、重金属によって免疫が弱体化するため、がん細胞の退治の邪魔をする、と言う研究者も多くいます。
さて、このキレート剤は人工的な合成物だけでなく、自然に存在するものもあります。
天然の物質でキレート効果があるのは、フラボノイドの一種で、カテキン、OPC(Oligomeric Proanthocyanidin)、タンニンなどです。これらは強力な抗酸化作用があることでも知られていています。松の樹脂や針状の葉、ブドウの種、ブドウの皮、ピーナッツの赤い皮などに多く含まれ、サプリメントとして販売されています。
また、様々なタンパク質にもキレート効果があることが分かっていますが、特に強いのはグルタチオンです。グルタチオンはカテキンなどと同じように抗酸化作用も強いのですが、キレートするのは特に、有害な薬物、食品添加物など天然には存在しない合成物です。ただ、グルタチオンは日本では薬物と認定されていますので、薬局以外がサプリメントとして販売することが禁じられています。
キレートとは少し違うのですが、金属イオンを捕まえて、体外に運び出す解毒効果があるのは、ゼオライト(Zeolite、沸石)です。ゼオライトは、火成岩、堆積岩、変成岩などに含まれる、格子状の結晶です。結晶の中に隙間が多く、全体が負の電荷を帯びていますので、隙間に正電荷を持つ金属イオンを吸着する性質があります。吸着しやすい順に並べると、セシウム、ルビジウム、カリウム、アンモニア(の陽イオン)、バリウム、ストロンチウムとなります。セシウム、ルビジウム、ストロンチウムは、原子力発電所から漏れる放射性物質で、バリウムも水溶性の化合物は体に害を及ぼします。これら有害な金属類を優先的に吸着するゼオライトは、解毒用のサプリメントとして販売されています。
ゼオライトと同じように、負の電荷を帯びていて、陽イオンの金属を吸着するのは、粘土類です。これら粘土類も、セイクリド•クレイ、ベントナイト•クレイ、フレンチ•グリーン•クレイなどの名前で、飲むサプリメントとして、あるいはお風呂に溶かすデトックス湯の粉末として販売されています。
まとめ
いかがだったでしょうか。今日は、どんながん治療をするにあたっても、身体をどれだけしっかり解毒できるかが重要だということを過去の医師たちが示してくれている例をご紹介させていただきました。