俗に「食事は腹八分目がいい」と言われますが、その根拠について考えたことはあるでしょうか?
「そんなの常識じゃん!」とお叱りを受けそうですが、現代のような飽食の時代にあって、美味しいもの、食べたいものが周りにあふれていると、腹八分を維持するのはなかなか簡単ではありません。
食欲をそそるメニューが目の前にあれば、つい手が出てしまいます。
結果、食べ過ぎ、飲み過ぎて肥満やメタボで生活習慣病が心配、なんてことにもなりかねません。
そうならないためにも、食事や栄養コントロールは必須です。
食事制限は、生活習慣病だけではなく、実はアンチエイジング、すなわち老化防止にも大きくかかわっていることが、最近の研究でわかってきました。
キーワードは、長寿遺伝子「サーチュイン」。
サーチュインとは、いったいなんでしょうか?
食事や栄養をコントロールすることと、どういう関係があるのでしょうか?
目次
長寿遺伝子とは?
長寿遺伝子は、人間だけではなくどんな生物にも存在するとされています。
正確には、「サーチュイン」と呼ばれる遺伝子の仲間の総称で、2000年にアメリカ、マサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガレンテ博士が発見したことで知られるようになりました。
きっかけは、1935年にアメリカ・コーネル大学のクライド・マッケイ博士が行なったラットの実験です。
ラットに与える食事で、タンパク質やミネラル、ビタミンの必要量を維持したまま、カロリーを7割に減らしたところ、寿命が約25%長くなることが示されたというものです。
ガレンテ博士は、この研究をもとに、酵母菌の寿命をコントロールする遺伝子が存在することを突き止め、その遺伝子を活性化したハエや線虫も寿命が伸びることを発見します。
やがて人間においても、長寿遺伝子が働くことで、さまざまな健康効果をもたらすことを明らかにしました。
具体的には、がんの抑制や活性酸素の消去、筋肉の強化、糖尿病の予防、脂肪の燃焼、そして老化の抑制などに関与していることがわかったのです。
どんなときに働くの?
このサーチュインなどの長寿遺伝子は、自然に活動するわけではありません。
どんな時に働くか?
そのポイントは食事の量だと考えられています。
つまり、食べる量を減らすことで活性化することがわかったのです。
このことを裏付ける、もう一つ有名な研究があります。
アメリカのウィスコンシン大学マディソン校が行なったサルの研究です。
研究チームは、同じ年齢(4歳)のサルに対し、一方は普通より3割少ない餌を、もう一方には普通の餌をそれぞれ20年間にわたって与え続け、経過を観察しました。
サルの平均寿命は26歳ぐらいで、人間に例えると80歳前後に相当するそうです。
したがって20年後のサルは、人間でいうと両者ともに75歳前後になります。
20年を経て、同じ歳のサルにそれぞれどんな変化が現われたと思いますか?
なんと、普通の食事を与えたサルは、毛が薄くなり、皮膚にシワが多く、動作も緩慢で、人間と同じように老化現象が進んでいました。
対して、餌を3割少なく与えたサルは、毛がふさふさして、皮膚のシワやたるみもなく、ケージの中を活発に動き回っていたそうです。
外見だけではなく、脳にも違いが見られ、前者のサルは神経細胞が死滅して隙間が多いのに対し、後者のサルは脳も若々しい特徴が見られたといいます。
飽食、過食下では働かない
これらの結果からうかがえるのは、サーチュインなどの長寿遺伝子は、飢餓や空腹といった、ある意味で過酷な環境のなかでより活性化しやすい傾向があることです。
生命にとっての最大のテーマは、飢餓との闘いだといわれます。
わたしたち人間もまたその長い歴史の中で、過酷な環境を生き延びるために必要な因子を少しずつ獲得していったと考えられます。
しかし現代のような飽食の時代は、長寿遺伝子が働きやすい環境とはいえません。
なかでもわたしたち日本人は、飢餓とは無縁の生活を送っています。誰もが好きなものを、好きな時に、好きなだけ食べられる環境下では、サーチュイン遺伝子は働きにくく、結果として様々な病気や老化現象をもたらす要因にもなっているのです。
逆に言えば、そうした状態から抜け出すには、サーチュインなどの長寿遺伝子が活性化する条件をつくりだす必要があるでしょう。
長寿遺伝子を活性化させるには?
サーチュインなど長寿遺伝子を働きやすくするには、軽い飢餓状態をつくることだといわれています。
ただし重要なことは、体に必要不可欠な栄養素が不足しないように食事の量を調整すること。
最高の栄養状態とは、タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル、植物栄養素がバランスよく摂れていて、消化・吸収と、代謝が正常に行われる状態が保たれていることです。
とくにサーチュインなどが働くためには、各種ビタミンや各栄養素の媒介役であるミネラルが必須。
単純にカロリーだけを制限すればいいと思って、食事の量を減らしてもサーチュインが増えるわけではありません。
現代人に欠けているのは、圧倒的にビタミンやミネラルです。
それらを補充するためには、たとえば大豆製品や野菜、魚介類、海藻、きのこ、イモ類など、栄養の濃い食事を選ぶこと。それができれば、カロリーは気にしなくてもOKです。
まとめ
アンチエイジングには、サーチュインなどの長寿遺伝子を長く働かせることですが、そのためには無理のない、継続できる食事の仕方が大切です。
1日3食を2食にしたり、腹八分目にすることも、実は「理にかなっている」のです。
最高の栄養状態を保ちつつ、1日2食、腹八分目の食事を心がけることをおすすめします。