動物性タンパク質が、がんを誘発?|病気にならないタンパク質の取り方とは

肉や牛乳などの動物由来のタンパク質が、がんをはじめとする生活習慣病を誘発する可能性がある、と言ったら驚くでしょうか?

食物や栄養とがんとの関連について、さまざまな研究が行われていますが、確実にがんのリスクになる食品を特定するのは簡単ではありません。

ただ、牛・豚・羊などの赤肉や加工肉は、大腸がんのリスクを上げることは多くの研究や疫学調査から明らかになってきています。

 

動物性タンパク質で「肝臓がん」

動物性タンパク質を摂りすぎると、がんを発症しやすいと指摘する医師は、少なくありません。

アメリカ・コーネル大学の教授で“栄養学のアインシュタイン”とも呼ばれたコリン・キャンベル博士もその一人です。

栄養とがんについての専門家で、ダイオキシンやアフラトキシンといった毒物に関する研究や、「中国プロジェクト」という疫学研究を指揮した人としても知られています。

キャンベル博士を一躍、有名にしたのは、2014年9月、アメリカのサンディエゴで開催された「植物性食品による国際医療会議」です。

当時博士は、フィリピンの子どもたちの栄養改善に取り組んでおり、そのときに気づいた不思議な現象について明らかにします。

それは、首都・マニラなどフィリピンの都市部で暮らす子どもたちに「肝臓がん」にかかる例が多いことを発見したことでした。

肝臓がんは、欧米はもちろん、日本でも一般的に40歳以上の成人に見られる疾患です。

つまり大人のがんと考えられており、なぜ子どもに発症したのか、会場に集まった多くの研究者の注目を集めました。

キャンベル博士は、その現象について当時のフィリピン大統領・マルコス大の顧問を務めたこともある、地元の医師に事情を尋ねています。

それによると、子どもの肝臓がんは「裕福な家庭で良質の食事を与えられている子どもほどかかりやすい」というのです。

ここで言う良質の食事とは、肉類や牛乳など高タンパクの食品です。

裕福で、良質の食事(高タンパク食)をしている子どもたちが、なぜ肝臓がんにかかりやすいのか?

博士は、その原因や背景などについて徹底的に調べました。

 

がんとタンパク質の関係

動物性タンパク質と、子どもの肝臓がんとの関連を裏付けるヒントになったのは、ある医学誌に掲載された論文でした。

インド人の学者がまとめたもので「ネズミの肝臓がんとタンパク質摂取」に関する実験報告です。

実験は、ネズミを2つのグループに分け、一方には発がん物質のアフラトキシンを与えたあと、動物性タンパク質を20%含んだ食事で育てるようにしました。

もう一方には、同じくアフラトキシンと、動物性タンパク質の量を5%にした食事を与え、違いを調べました。

その結果、前者のグループは、全部が肝臓がんとその前ぶれを示す病変を起こしましたが、後者のグループで肝臓がんや前ぶれ病変を起こしたネズミは一匹もいなかったそうです。

キャンベル博士は、この実験結果をもとに、自ら条件を変えてさまざまな比較試験を行います。

たとえば、高レベルのアフラトキシンを与えたグループに低タンパク食、逆に低アフラトキシンのグループに高タンパク食を与え、経過を比較しました。

その結果、高レベルの発がん物質を与えられたにも関わらず、低タンパク食の方が、がんの病巣がわずかしか発現しなかったのです。

これにより、食事のタンパク質を減らすことで、がんの成長が抑えられることを突き止めます。

 

一定量を超えると病気を誘発

最も重要な発見は、病巣の成長は、動物がその体に必要な食事タンパク質の量が満たされ、その量を超えた時から始まることでした。

つまり、動物性タンパク質の必要量が満たされれば、あとは病気を誘発するもとになることがわかったのです。

これらの研究結果を踏まえ、キャンベル博士は人間にはどのような種類のタンパク質が、どれくらい必要かについて調べを進めます。

そして過去40〜50年に及ぶさまざまな研究から導き出されたタンパク質の必要量や、専門家や公的機関が推奨するたんぱく質量などから、総摂取カロリーの約8〜12%が健康を維持するのに十分な量であることを示します。

同時に、タンパク質には動物性と植物性があり、実験で発がん性が示されたタンパク質はいずれも動物性で、カゼインが多く含まれていることに注目します。

カゼインは牛乳のタンパク質の80%以上を構成している物質で、動物実験ではカゼインを餌にしたネズミから発がん性が多く認められたのです。

このことから、同じタンパク質でも植物性の方が病巣の発現が低いことを明らかにし、緑黄野菜や豆類から十分な量のタンパク質を摂取することを推奨するのです。

 

栄養はチームで働く

キャンベル博士の研究成果は、そのまま世界に受け入れられたわけではありません。

動物性タンパク質を多く摂取しても、実際にがんにならない人はたくさんいるからです。

ポイントは、摂取したタンパク質が身体でしっかり消化吸収され、健全に代謝されること。

栄養素はチームで働きます。

タンパク質、脂質、ビタミン、ミネラル、ファイトケミカルなど健康維持に必要な栄養素は、どれか一つでも欠けてしまうとその栄養効果は激減してしまいます。

タンパク質の代謝には、ビタミンやミネラルがとくに重要です。

動物性タンパク質を含む肉や乳製品、卵などの食品も重要なタンパク源の一つですので、ビタミンやミネラルが豊富な野菜などと一緒にバランスよく食べることを心がけるとよいでしょう。

 

まとめ

タンパク質は、身体の成長や生命維持のために最も重要な栄養素の一つです。

近年、増加傾向にある不妊症やアトピー性皮膚炎などは、タンパク質不足が関係していると考える医師も少なくありません。

豆類や穀類などの植物性タンパク質を多く含む食品を中心に、動物性タンパク質の摂りすぎに注意しながら、その他の栄養素もバランスよく摂ることが、がんをはじめとする疾患の予防になるのではないでしょうか。